名古屋覚の管見ギャラリー7 ヴァーカ展

(月刊「ギャラリー」2014年3月号)

現金というのはいつまで世に在るのだろう。現金がなければ、すり、強盗、誘拐はない。

例えば、日銀券でなく一人一人に日銀カードを配る。カードは各人の口座と連動。買い物では虹彩でも見せてピッとやるだけ。発行は民間銀行に委ねてもカード会社と提携してもよい。

ただのデビット・クレジットでは能がないから顔写真、病歴、DNA型など一切記録する。住基も免許も保険も年金もこれ一枚。昨年11月号で触れたベーシックインカムにも便利だ(それなら保険や年金はない)。指名手配犯もこのカードを止めればすぐ往生する。

もちろん、誰がいつどこで何を買ったかビッグブラザーは全て把握できる。が、それで困る人は一体、何を買うつもりか。現金が必要なのは怪しい連中だけ。

この案が実現していれば今回の都知事選はなかったかも。

ゾンビ公募

7時まで1杯300円の銀座のバーで、けちな美術展逍遥家とまた一緒に。

 3月は現代美術界でVOCA展の時季。Vision of Contemporary Art(現代美術の展望)の略で「ヴォーカ」と読む。1994年から毎年、上野の森美術館で行われている、現代絵画の登竜門とかいわれる公募だ。

 全国の美術館学芸員や評論家が1人ずつ作家を推薦して出品させる。地方の才能が発掘されるのは優れた点だ。

 でも1月号ではひどいこと言ってたね。

 誇張すればああなる。20年前から実行委員や賞選考委員の中心がずっと同じ面々。4人で皆、男。

 20年間、同じ連中が日本の現代美術の登竜門を牛耳っているのか。皆60は越えてるよね。頭が固いんだろうな。

 逆だ。老人は新しい物事に理解があると思われたがる。むしろ若手にこびるんだ。今の地位を守るためにもね。だからVOCAでは近年、細かいのとか不安げなのとか、今風の自閉症的イラストみたいな作品ばかり賞をもらう。毎回、申し訳みたいに女性選考委員を2人ほど交ぜてるけど、写真の専門家だったり絵画が分からなそうな人だったりするのも変だ。本来、絵画の公募だったはずだが。

 森美術館で会田誠展を企画した人がことし入ってるけど。

 会田をまともに評価できる人は、絵画をまともに評価できない。本質的な絵画から最も遠いのが会田だから。

 出品作家たちが直前までどんな発表をしていたか、自分の目で見ている委員はいるのかな。

 貸画廊まで回ってる人は1人知ってるよ。

 昨年12月号で言ってた、あんたの恩人?

 そう。ただ20年間、後継者も出さない体制は醜悪だ。30~45歳の世代が45~60歳の世代に挑戦することで世界が動く、というのがスペインの哲学者オルテガの世代論。20世紀前半の論だけど、60より上は死んでる前提なんだよ。ゾンビがやってる公募みたいだ。

 いかにも首都の首長選で主要候補者が皆60代以上なんて国らしいな。

平面未開人

 最大の問題は、出品作品を「平面」なんて言ってること。そんな言い方、世界にない。どこの国でもペインティング(絵画)はペインティング、写真は写真、版画は版画と言い続けている。平面ならいいからと油絵、いわゆる日本画、写真その他を一緒にして賞を出すのは、走れればいいからとマラソン大会でオートバイ参加OKにするようなもの。

 行き過ぎた抽象で、ただの平面としか言いようがない絵画がはやった、20年よりもっと前の言い方だろ。老害の表れだな。平面というごまかしに甘えて、日本の現代絵画、特に油絵ね、その質が上がらない。

 油絵とイラストの違い、油絵と日本画の本質的な差(昨年6月号小川英晴氏座談会参照)が分からず、等価に考えてしまう。未開人だな。VOCAでなくVACA(ヴァッカ)ならポルトガル語で雌牛のことだが、女性をばかにする言葉でもある。つい連想してしまう。

 推薦する人たちはどうなの? あんたも95年から去年まで推薦委員やってたし。

 19回やって2人に大賞のVOCA賞、4人にVOCA奨励賞、2人に佳作賞を取らせた。賞金総額1200万円。

 自慢か。まあ、画廊で2400万円分の買い物をしたような経済効果だな。作家にとって。

 自分の懐を痛めずにね。推薦委員について言えば切りがないけど、もう画廊が付いてる作家を推薦するやつは、頭の固い老人よりたちが悪い。新人発掘にならない。

口も出せ

 こんな状態を放任しているVOCA展協賛会社の第一生命保険の罪は重い。金は出すけど口は出さないのは、文化支援では美徳でなく無責任だ。実行委員を入れ替えるだけでは駄目。社員に保険の仕事を中断させて社費で大学院にでも通わせてから選考委員として送り込み、授賞によって協賛会社の“美学”を示すべきだ。

 冗談じゃない。株式会社だろ。余分な金があるなら配当として株主に還元するか、保険料を下げて客に還元しろ。社員の給料を上げる必要はない。

 同じことを、つまらん文化祭をやってるビール会社にも言ってやれ。なぜ同クラスならどの会社のビールも値段が一緒なのか? 他社より1円でも下げれば皆それを買う。貧しい酒飲み画家は浮いた金で絵の具を買える。それがビール会社の文化支援というものだ。

コラムニスト、美術ジャーナリスト 名古屋 覚(なごや・さとる)
1967年東京生まれ。ミラノ発行の英文現代美術誌「Flash Art」日本通信員。美術評論家連盟会員。秋田公立美術大学非常勤講師。

「お通し禁止条例」と「たばこ禁止(単純所持も)条例」を作ってくれるなら
誰にでも投票したのだが。名古屋覚撮影

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